日本代表・桑木野恵子シェフも参加したガストロノミーイベント「GENUSS-MESSE(ゲヌース-メッセ)」ウィーンで開催=前編=

2022年9月17・18日、オーストリア・ウィーンで開催されたガストロノミーイベント「ゲヌース-メッセ」。

ヨーロッパを中心に100人以上の著名なシェフが集結したこのイベントに、『ゴ・エ・ミヨ 2022』で「テロワール賞」を受賞した「里山十帖」桑木野恵子さんが唯一のアジア代表として招へいされました。

「ゲヌース-メッセ」は、『ゴ・エ・ミヨ オーストリア』が毎年開催している“食”にフォーカスした一大プロジェクト。最高の食材と技術でつくられる世界トップクラスの「オートキュイジーヌ」を、より多くの人が体験できる機会を設けることで、ガストロノミーファンを増やし、文化としての美食の伝統を次の世代へと受け継ぐことを目的としています。

『ゴ・エ・ミヨ オーストリア』のこの理念は多くのシェフの共感を得て、『ゴ・エ・ミヨ』の最高評価である「5トック」を得たレストランをはじめ、世界的に評価を得ているシェフたちがのべ100人以上も参加。さらに、近年は世界的に評価が高まっているオーストリアワインを中心に、近隣の国からも駆けつけた60以上のワイナリー、ブルワリー、蒸留所、それぞれの地方の特産品や自慢のプロダクトを持ち寄った40以上の出展者が集まりました。

会場には、今年特に注目すべきシェフがデモンストレーションを行うステージ型のショーキッチン、2時間ごとにシェフたちが入れ替わり、それぞれオリジナルの料理をその場で調理して振る舞うフードブース、ドリンクや生ハム、ソーセージといったプロダクトを試食できる常設ブースがあり、参加者はフリードリンク・フリーフードで好きなものを一日中たっぷり味わえるというお祭りのようなイベントです。

アジアからただひとりのゲストシェフとして迎えられた桑木野恵子さんは、新潟にある温泉旅館「里山十帖」の料理長。自然と共に暮らし、山の生態系を理解し、古来受け継がれてきた地域のコミュニティで食の喜びを分かち合う「早苗饗(さなぶり)」というコンセプトに基づいた料理は、心身を整える人間にも地球にも優しいサステナブルな料理として、国内外から高く評価されています。

今回桑木野さんに求められたのは、西洋とは異なる東洋文化の伝承。そして都市型レストランでは得られない自然へのアプローチです。期待の大きさを表現するかのように、フードブースは最も広くてゲストが集まりやすい(行列しやすい)ベストポジションが用意され、ショーキッチンでのデモンストレーションにはフードセレブリティが集まりました。

「日ごろから山や森の恵みを受けて生活を営んでいる里山の暮らしの知恵を、ウィーンのような都市でお伝えするなら、その土地で育まれた野菜に投影しようと考えました。日本の食文化をお伝えするために、最低限の必要なものは日本から持ち込みましたが、主役の野菜はすべてお客様にとって身近なオーストリア国産のものを調達しました」と桑木野さんは言います。

ショーキッチン(30食)で披露したのは「オーストリア産フルーツの白和え」。近年はヨーロッパでも健康食として知られているものの、一般家庭ではまだまだ食べ方がわからないと言われる豆腐をヨーロッパの人たちにも食べやすいかたちにアレンジしました。

300食を用意したフードブースでは、10種類以上の野菜をそれぞれ調理して持ち味を際立たせた“ガルグイユ”スタイルの「野菜のごま和え」。機能優先のフードプロセッサーでなく、日本から運んだすり鉢でゆっくりとあたったごまの香りは洋の東西を問わず多くの人を惹きつけるよう。ブースには開始時刻より前から行列ができました。

『ゴ・エ・ミヨ オーストリア』の調査チームを率いる著名なフーディ、Jurgen Schmuckingさんは「オリエンタルのエキゾチックな魅力もありながら、多くの人にとって食べやすく親しみやすい普遍的なおいしさがあります。野菜やフルーツを主役にした、環境負荷が少なく人間の健康にもよいとされる料理は、これからさらに需要が高まるでしょう」と語りました。

「オーストリアの食文化に少しでも多く触れて、オーストリア産の食材のポテンシャルを理解したい」と語っていた桑木野さんは、どこでどんな食を発見したのでしょうか。後編では、食とそれを取り巻く人々と桑木野さんとの幸せな出会いをお伝えします。

写真・文 江藤詩文